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「皮膚や歯肉から垢が落ちても、その厚さは変わらないのは、なぜ?」という問いかけで前回はおわりました。皮膚や歯肉は上皮細胞から作られた上皮組織が体の表面を覆っていますが、上皮細胞の入れ替わり(ターンオーバー)も速いことが一つの特徴です。その仕組みの主役は幹細胞の存在です。歯肉上皮を構成する上皮細胞は、基底層にいる上皮幹細胞から生まれてきます。言い換えるとこの上皮幹細胞から上皮組織が作られることになります。歯髄の間葉系幹細胞は、線維芽細胞になるときもあれば、象牙芽細胞になるときもあります。一方で、上皮幹細胞は有棘層の細胞になったり、顆粒層の細胞になったりはしません(図1)。なぜなら、基底層にいる上皮幹細胞が有棘層の細胞に分化し、その後、顆粒層の細胞に分化し、最終的に、角質層の細胞に分化後、細胞死がおこり、垢として落ちる一生だからです。垢が落ちても上皮の厚さが変わらない理由は、上皮幹細胞が一生涯、自分を作り出す能力、自己複製能を持っているからです。

一般的には細胞が増殖し続ける細胞はがん細胞ですし、正常細胞には寿命があります。したがって、この上皮幹細胞は一生涯にわたって自己複製をしますが、分裂回数は無限ではなくて有限です。言い換えると、もし仮に今、急にヒトが200年も生きるようになったら、この上皮幹細胞は、分裂回数が決まっていますので、上皮がいつかは無くなるかことになるでしょう。つまり、頻回に分裂するとすぐに寿命が尽きてしまうので、上皮幹細胞を含むそれぞれの組織にいる幹細胞(これを組織幹細胞とよぶ)は細胞分裂の回数をできるだけ少なく抑えるように仕組まれています。

その仕組みとは、上皮幹細胞から一歩分化した一過性増殖細胞(transit-amplifying cell, TA細胞)の存在です。このTA細胞は、活発な細胞分裂能力を持った細胞ですが、この細胞もいつかは細胞分裂ができなくなります。その時に、おそらく上皮幹細胞が何らかの刺激(信号)受け取って、細胞分裂することで上皮幹細胞とTA細胞を生み出すことになります。上皮幹細胞は幹細胞なので、自己複製能を持つことから、上皮幹細胞を維持し、もう一方のTA細胞が活発に分裂して有棘細胞に分化し、顆粒細胞そして角質細胞に分化して歯肉や表皮の厚さを維持しています(図2)。この幹細胞とTA細胞との関係性は、“階層的な幹細胞/TA細胞モデル”という概念として知られています。

最近になって、表皮の上皮組織における新しい概念が生まれました。これまでに、小腸の幹細胞は活発に細胞分裂することが知られていて、“階層的な幹細胞/TA細胞モデル”とは一致しませんでしたので、他の仕組みがあると考えられていました。この最近の皮膚の上皮の研究では、細胞分裂の頻度の低い幹細胞と細胞分裂の頻度の高い幹細胞の2種類の幹細胞がいることが示されています(図3)。これまで、幹細胞ではないと考えられてきた細胞分裂の頻度の高い細胞も幹細胞として働くことが発見されました。細胞分裂の頻度の異なる2種類の表皮幹細胞は皮膚の異なる領域に局在しており、異なる種類の細胞に分化しているようです。さらに、これら2種類の表皮幹細胞は通常の状態においては独立した役割を持っているようですが、皮膚の損傷などの危機的な状況におかれると互いの機能を補完しあう、つまり、協調して働くことが見い出されています。歯肉上皮を含む口腔粘膜上皮は、皮膚の上皮とよく似た環境であることから口腔粘膜にも同じような2種類の幹細胞がいるかもしれません。

現在、この皮膚や口腔粘膜の上皮細胞を使った再生医療が活発に行われていますので、次回は、上皮組織の再生医療についてお話します。

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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