令和6年度歯科診療報酬改定では、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」の名称を「口腔管理体制強化加算」に変更するとともに施設基準が見直されることになりました。シン・かかりつけ歯科医院として、何を強化するかを模索していく中で、障害者歯科への取り組みが参考になればと思い、今回もダブル・コウヘイでお伝えしてまいります。
解説いただく先生のご紹介
松村先生解説「笑気と静脈内鎮静法」
レディネスの有無で治療ができるかどうかを判断した後、レディネスがあると判断された場合どのように治療をすればいいのでしょうか?
まず、緊急の治療がなければトレーニングを行い、少しずつ歯科に慣れてもらい治療に進む方法があります。ですが、トレーニングをしても緊張や恐怖心が強く治療中に動いてしまったり、少し拒否の行動があったり、嘔吐反射が強かったりする場合は笑気吸入鎮静法が有効です。
笑気吸入鎮静法は20%~40%の亜酸化窒素ガスを吸入することで歯科治療への恐怖心や不安感、嘔吐反射を軽減させ、痛みの閾値もわずかに上昇させます。これを吸入することにより治療をスムーズに進めることができます。笑気がよく効いた状態を一般的に表すとお酒を飲んでちょうど気分良くなった状態が近いです。
ですので、あまり濃度を上げすぎると嘔吐されることもありますし、(私も年に何回かは嘔吐されることがあります。) 泣く子供に笑気を吸ってもらっても泣き止むほどのものではありません。笑気だけで歯を抜くこともできません。(過去には海外で浸潤麻酔無しで笑気だけで歯を抜こうとして患者さんは失神したそうです)
また、お酒に強い人がいるように高濃度の笑気を吸入してもほとんど効かない人もいます。(この場合は年齢や体重次第で私の医院では静脈内鎮静法または静脈麻酔で治療をしています)
そしてただ単に笑気を吸ってもらってもよく効く患者さんはいいのですが、そうでない人へは「だんだんとぼーっとしてきます」等の声掛けして、暗示効果をかけてあげることが重要です。
機械やタンクの購入はしないといけませんが、これがあるだけでだいぶんと治療可能な患者さんが多くなると思います。
笑気が効かない患者さん、レディネスが無い患者さんは静脈内鎮静法・静脈麻酔で治療をしています。こちらはプロポフォールやミダゾラムなどの薬剤を静脈内に注射、点滴し、鎮静状態または完全な睡眠状態にして治療を行います。術前に禁飲食や薬へのアレルギーの有無を確認し、麻酔導入時の一番の難関は静脈確保ができるかどうかにかかってきます。これができないと麻酔薬が入れられません。処置中もハンドピース類からの水の気管や肺への流入を防がないといけませんし、寝ているからといって全く動かないわけでもありません。全身麻酔と違い筋弛緩薬を注射し、人工呼吸器で呼吸管理しているわけではないので、痛みや様々な刺激で手が動いたり振り払おうとしたりすることもあり、治療でも寝かせているが故のやりにくさもあります。口を開けてくれないのでフルマウスの印象が取りにくい、舌根が落ち込んで呼吸管理が難しい等々寝かせているから治療は簡単です・・・とはなかなかなりにくいものです。
静脈内鎮静法・静脈麻酔は笑気吸入鎮静法と異なり、安易に行うことはお勧めできません。
マイケルジャクソンは寝られないからとプロポフォールをどんどん入れてしまい帰らぬ人となってしまいました。これは実際の治療でも起こりうることなので、経験のある障害者歯科の先生や歯科麻酔の先生に鎮静を行ってもらうことが望ましいですし、近隣の障害者歯科センターや大学病院等に治療を依頼することのもよいと思われます。
我々、障害者歯科を学んだものとして1番患者さんにとって良くないと思うのは、レディネスがぎりぎりありそうなので、長期間トレーニングや抑制下の治療を行ったが、虫歯だけが進行してしまい、紹介した時には抜歯しなくてはならないといったケースです。
こうならないためにも障害者歯科の正しい知識を取り入れ、患者さんにとって良い選択を示すことが重要だと思います。
松野先生解説「地域において障害者歯科に求められること」
地域において障害者歯科に求められることは、口腔ケア、歯科治療、摂食嚥下診察、栄養管理など、多岐にわたりますが、当院では、外来診療でも訪問診療でも、障害者歯科の幅広いニーズにお応えできるよう、体制を整えています。
また近年は、障害者歯科的アプローチを必要とする年齢層も拡大傾向にあり、今回の診療報酬改定でも「小児に対する歯科訪問診療の推進」の流れがさらに加速することが見込まれています。 とはいっても、障害者歯科のノウハウが乏しく、ご不安を感じる方も少なくはないと思います。なので、まずは外来診療での定期的な口腔管理から始めていただくのが、障害者歯科への取り組みのファーストステップとして理想形のひとつであると考えています。
その次のステップとして、訪問診療での障害者歯科への対応が可能なクリニックが増えていくことが期待されています。なかでも、小児への訪問診療はニーズが高まっている一方で、成人・高齢者への訪問診療と比較して異なる点が多いため、研修などでの知識習得が重要だと考えていますが、体系的に学ぶことのできる機会はとても少ない現状です。そんな状況を打破するために、「小児在宅歯科のススメ」というセミナーを2021年から開催していますので、ご興味がある方はぜひご参加いただき、この分野のことを深く知っていただきたいと思っています。
さらに、摂食嚥下診察や栄養管理についての取り組みについてご紹介します。この分野については、さらにハードルが高いと感じられるかもしれませんが、それぞれの地域において少しでもかかわりたいと手を挙げてくださる歯科医療関係者のネットワークを広げていきたいと考えています。
「食」に関するお悩みに対応していくためには、医療、福祉、教育、保健など、様々な分野の専門職との連携が求められます。まさに、これからの「多様性が求められる時代」の歯科のミッションだと感じています。ライフステージに合わせた障害者歯科×予防歯科の地域密着型アプローチをこれからも真摯に実践していきたいと思います。
写真は医療法人メディエフ寺嶋歯科医院HPから引用