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第4回 歯髄幹細胞は歯髄に欠かせない細胞

第4回 歯髄幹細胞は歯髄に欠かせない細胞

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本田 雅規 本田 雅規
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歯を維持する為の歯髄の重要な役割 前編

年は、歯髄の中に「歯髄幹細胞」がいることが見つかった2000年から、ちょうど20年になる。そして、現在、歯髄幹細胞を根管内に移植すると歯髄が再生できることが分かってきた。一方で、発生学の学問からみても、歯髄にいる歯髄幹細胞(間葉系幹細胞)が象牙芽細胞や線維芽細胞に分化して、象牙質と歯髄を形成することが明らかになったことの意義は大きい。さらに、覆罩法なので、覆罩剤を充填後に、歯髄と象牙質が再生する機構も明らかになった。以上のことから、理屈上は、歯髄幹細胞を移植すると歯髄の再生が可能になる。そこで、第4回は、歯髄幹細胞移植による歯髄の再生治療の現状について概説するが、前半は歯髄とその再生の意義について考えてみる。
はじめに、臨床の現場では、「実際に歯髄の再生が必要なのだろうか?」数年前の講演会で「歯髄幹細胞を移植すると歯髄が再生する」話をさせていただいた時に、ある先生から「歯髄を再生させると補綴の治療の弊害になる。例えば、歯冠の修復が必要なときには、根管内にポストを立てるけど、歯髄があるとポストが立てにくくなるのでは?」という質問を受けた。当時、拙者は、その質問に対して、適切な回答を持っていなかった。現在でも、歯髄の再生の必要性については、歯の治療によって、大きく意見が分かれるところと考えている。もちろん、皆さんのだれもが、歯髄を残すことに異論はないでしょうが、補綴治療の場合、歯髄を再生させることで治療が難しくなる症例もあるので、将来的には、補綴治療を前提にした歯髄再生治療の開発が必要になる。
次に「歯髄を再生する」のに必要な理由を考えてみる。「歯髄を喪失すると歯にどのような影響があるのだろうか?」図1は歯の喪失原因を表した調査になる。スウェーデンでは、歯の喪失理由の第一位は歯の破折である(参考文献1)。

そして、日本の調査になるが、破折した歯を調べてみると、歯髄がない歯が圧倒的に多いことが分かっている。つまり、歯髄を除去することで歯が破折する頻度が高くなり、結果的に、歯の喪失の原因になっていると考えることができる。拙者が、歯科医院で歯科医をしていた時も、歯根破折した歯のほとんどは「無髄歯」だったことを覚えている。そして、その歯根破折した歯の治療のほとんどは抜歯になった。みなさんも同じような経験をされていると思いますが、いかがでしょうか。
歯髄の働きには、象牙質への栄養供給もある。一方で、細菌が象牙細管(図2)を通って、歯髄に侵入した時に、初めて出会う細胞は歯髄の象牙芽細胞層にいる樹状細胞である。樹状細胞とは、抗原提示細胞で皮膚組織をはじめとして、外界に触れる鼻腔や肺、胃、腸管に存在している。樹状細胞の形は、その名前の通り樹木のように、木の枝のような突起をもっている。樹状細胞の働きは、象牙細管から侵入してきた細菌などの異物を発見すると、異物の特徴を覚えるために、自分の中にその異物を取りこんで、リンパ節に移動し自分の覚えたその特徴をリンパ球に教えて、リンパ球がその異物を攻撃するように指示を出す。要するに樹状細胞は免疫細胞の司令塔のような役割を持っている。

以上、歯髄の必要性について述べた。ここで、第4回の連載の前半をまとめると、歯の長期延命には、歯髄が必要であり、歯髄があることで、健康な歯の構造と歯の機械的強度が維持できることになる。これからの日本は、ますます長寿社会になることが予測されるので、我々のQOLを維持するために、歯を残すことが大切であることは国民の多くの方も理解しはじめている。その歯の延命には、歯髄が必要であり、歯を保存することと共に、歯髄を再生することも必要なことと考える。言い換えると、抜髄した歯や感染した歯においては、歯髄を再生する治療法が時代に即した医療になるのではないでしょうか。(後半に続く)

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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