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これまでの連載コラムでは、幹細胞の中で、歯科医に身近な存在である歯髄の幹細胞を取り上げてきました。歯科医にとって、もうひとつの身近な組織といえば「歯周組織」です。この歯周組織の維持にも間葉系幹細胞が必須です。そこで、次は「歯周組織の幹細胞」のお話にしましょう。

ところで、歯周組織の間葉系幹細胞は、どこにいるのでしょうか? 答えは歯根膜です。この歯根膜にいる幹細胞も歯髄幹細胞と同じく、間葉系幹細胞に分類されます。他の間葉系幹細胞と混同しないように「歯根膜幹細胞」と名付けられ、その特性は他の間葉系幹細胞と類似します。

歯根膜の幹細胞の役割を理解していただくために、歯周組織の復習をしましょう。歯周組織を構成する4つの組織はなんでしょうか? 答えは、「歯根膜」「セメント質」「歯槽骨」「歯肉」です(図1)。歯肉を思いつかなかった方もおられると思います。その歯肉は、「歯肉上皮」と「粘膜固有層(歯肉固有層)」の2層から構成されます。歯周組織を上皮系と間葉系に分類すると、上皮系は「歯肉上皮」のみで、その他はすべて間葉系ですので、歯根膜は間葉系組織です。

次に、歯学部の講義で学んだ歯周組織の働きを考えましょう。歯周組織の最も重要な役割は、歯を歯槽骨に係留することです。歯科医の方は、歯と歯槽骨が直接結合していると考える方はほとんどいないと思いますが、一般の方とお話すると、歯と骨が直接繋がっていると繋がっていると考えている方も多いようです。歯のセメント質と歯槽骨は、歯根膜の主線維によって係留されています。この主線維がセメント質と歯槽骨に入り込むと、その線維はシャーピー線維と名付けられます。これらの線維はコラーゲン線維です。つまり、歯根と歯槽骨は、コラーゲン線維だけで繋げられているにもかかわらず、簡単に歯は抜けません(図2)。

では、このコラーゲンの主線維を産生している細胞は誰でしょうか?答えは「歯根膜幹細胞」ではありません。歯根膜の「線維芽細胞」です。先ほどの歯肉も歯の支持と維持に役立っています。歯の動揺が強くて、レントゲンで見ると歯槽骨がほとんど吸収しているにもかかわらず、歯が抜けずに、口の中に残っているような症例に遭遇します。その理由は、歯肉固有層のコラーゲン線維が歯肉とセメント質を繋げているからです。一方で、歯肉の上皮は、エナメル質と接合して、細菌の侵入をふせいでいますから、歯肉上皮も歯肉固有層もどちらも立派に歯周組織としての役割を持っています。

筆者が学生の時のことです。歯周組織の形成機構がとっても難しくて理解できませんでした。それが今、講義をする立場にまでなれたことは、人間は努力で変わるということでしょうか。歯周組織の形成は歯根形成に連動して行われます。読者の方は、歯周組織の形成機構を覚えていますか? その主役は、ヘルトウィッヒの上皮鞘、象牙芽細胞そしてセメント芽細胞です。歯根形成の始まりは、歯乳頭の未分化な間葉系細胞が、象牙芽細胞に分化して、ヘルトウィッヒの上皮鞘を構成する内エナメル上皮との間に歯根象牙質を作ります。歯根象牙質が作られると、ヘルトウィッヒの上皮鞘は、象牙質から離れて、歯根膜に移動します。これがマラッセの上皮遺残です。ヘルトウィッヒの上皮鞘が、象牙質から離れると、歯小嚢の未分化な間葉系細胞が象牙質上に移動後にセメント芽細胞に分化して、セメント質を形成します。歯乳頭の未分化な間葉系細胞は線維芽細胞に分化して、歯髄の結合組織を形成します。これで、歯根が完成です。

歯小嚢の未分化な間葉系細胞は、線維芽細胞に分化して、歯根膜の結合組織を形成し、さらに、骨芽細胞に分化して、固有歯槽骨を形成します。すなわち、歯小嚢の未分化な間葉系細胞は、セメント芽細胞、線維芽細胞、そして、骨芽細胞に分化して、それぞれの細胞がセメント質、歯根膜、固有歯槽骨を形成します。これで、歯周組織が完成です。驚くべきことに、歯小嚢の未分化な間葉系細胞は、3つの細胞に分化できる多分化能を持っています。

次回のコラムでは、歯根膜完成後の歯根膜幹細胞のお話です。

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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