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歯周組織の構造、役割、形成機構、そして、その主役の細胞は、歯小嚢に存在する未分化な間葉系細胞であることを前回のコラムではお話しさせていただきました。その歯小嚢の未分化な細胞の研究において、つらくもわくわくした経験を紹介させてください。

15年ほど前のお話です。筆者が東京大学医科学研究所(医科研)にて、歯小嚢にいる間葉系幹細胞をみつけようとしていたときのことです。ところで、医科研は港区白金台にあり、その正門は目黒通りに、西門は目黒通りと外苑西通りを結ぶプラチナ通りに面しています。「白金」の地名に由来するプラチナ通りは、秋になると銀杏がとてもきれいでした。ハイソな街の雰囲気に合う女性を「シロガネーゼ」とも呼んでいましたので、我々も「カネガネーゼ」と自称していました。さて、今はどうなっているのでしょうか。

さて、その「歯小嚢」。当時、歯周組織を形成するセメント芽細胞、骨芽細胞そして線維芽細胞の由来に二つの仮説を考えていました。一つ目は、歯小嚢の中に一つの真の間葉系幹細胞がいて、その細胞が骨芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞の3つに分化する説です(図1)。

二つ目は、歯小嚢には、3つの未分化な細胞がいて、それぞれが骨芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞に分化する説です(図2)。

我々は真の幹細胞がいると考え、歯根が未完成な埋伏歯の歯冠部を取り囲む歯小嚢から単離した細胞を観察しました。すると、形が異なる3つの細胞を分離することができました。歯冠部の歯小嚢を用いた理由は、歯根が形成される部位では、歯乳頭の細胞が混在するからです。この3つの細胞をA、B、Cとします。それらの細胞の形は、Aは小さくて多角形、Bは大きくて多角形、Cは紡錘形で線維芽細胞様を示しました(図3)。

幹細胞の特徴は、小さくて多角形です。分裂・増殖しやすいように、最小限の大きさに構えていますから、筆者らはAが幹細胞であると信じて、3つの細胞を骨芽細胞と脂肪細胞に分化させたところ、A、B、Cのどの細胞も骨芽細胞と脂肪細胞に分化しました。「あ~あ、真の幹細胞はみつからなかったか」と落ち込みました。気持ちを取り直して、Aは骨芽細胞に、Bはセメント芽細胞に、そしてCは線維芽細胞に分化することがわかっても「大発見!」でしたが、当時は、セメント芽細胞と骨芽細胞を識別する方法がなくて諦めました。研究は目の前に大きな発見が待ち構えているので、毎日がわくわくの連続で、楽しい時間です。再度、気を取り直して、Aが骨芽細胞への分化能力が高く、Bが脂肪細胞への分化能力が高いことは突き止めました。

我々はそこで、真の幹細胞を探すことを断念しましたが、現在、その仮説はどうなっているのでしょうか?まだ、結論は出ていないようです。

次回は、歯根膜の間葉系幹細胞の話をしましょう。

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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