さて今回は、歯周組織再生の主役となる細胞の話ですが、クイズ形式で話を進めてみましょう。
最初の質問です。
間葉系組織、例えば、歯髄、脂肪、骨髄には間葉系幹細胞が存在します。歯根膜にも間葉系幹細胞はいるのでしょうか?
答えは「います」。2002年に歯髄幹細胞を発見したグループが歯根膜幹細胞を2004年に見つけました。その論文で「Periodontal ligament stem cells (PDLSCs)」とされ、和訳で「歯根膜幹細胞」となりました。
次の質問です。
歯根膜そのものを作る細胞はなんでしょうか? ヒントは、歯根膜は結合組織です。
つまり、答えは、線維芽細胞です。歯髄も結合組織で、歯肉の上皮下にある粘膜固有層も結合組織です。どれも結合組織なので、それぞれの名前が必要になり、歯根膜と命名されたのでしょう。次に、細胞が老いることはご存じだと思います。この線維芽細胞も老化すると細胞死がプログラムされていて、歯根膜から排除されます。古くなった線維芽細胞を排除するのはどの細胞でしょうか? 古い線維芽細胞を貪食する細胞も、線維芽細胞と考えられています。ここからが大事な話になります。古くなった細胞が排除された後に、新しい線維芽細胞が必要になりますが、新しく作り出すのは、どの細胞でしょうか? 答えは線維芽細胞ではありません。正答は「歯根膜幹細胞」です。すなわち、新しい線維芽細胞が作られないと歯根膜の細胞成分や線維芽細胞が作り出す細胞外基質成分が少なくなるので、老化が進行します。
次の質問です。
歯根膜には、線維芽細胞以外にはどのような細胞がいますか?
答えは「セメント質を作るセメント芽細胞、歯槽骨を作る骨芽細胞、骨を吸収する破骨細胞とマラッセの上皮遺残」の細胞たちが存在します。
これらの中で、歯根膜幹細胞から作り出されるのは、どの細胞でしょうか? 私の連載を読んでいただいている方は、すぐにお分かりだと思います。
答えは、「セメント芽細胞と骨芽細胞」です。
では、破骨細胞を作り出す細胞はなんでしょうか? ちょっと難しいかもしれません。
正答は「造血幹細胞」です。造血幹細胞とは、赤血球や白血球などのすべての血液細胞を作り出す幹細胞です。造血幹細胞については、別の紙面をお借りして説明します。次に、マラッセの上皮遺残を作り出す細胞(由来)を考えるには、歯の発生学の知識が必要になりますので、思い出してみましょう。
マラッセの上皮遺残が、歯根膜にやってくる前は、どこにいたのでしょうか?
答えは、「ヘルトウイッヒ上皮鞘(●図1)」です。
では、このヘルトウイッヒ上皮鞘を構成する細胞はなんでしょうか?
答えは「内エナメル上皮と外エナメル上皮」で、歯根形成に重要な役割をします。では、この内エナメル上皮と外エナメル上皮を作り出す細胞(由来・幹細胞)がわかれば、マラッセの上皮遺残を作り出す細胞もわかることになりますが、実は、これらの細胞を作り出す細胞(つまり、幹細胞)は、見つかっていませんので、答えはまだ明らかになっていません。正答がなくてすいません。つまり、ヒトの歯の間葉組織には、間葉系幹細胞(歯髄幹細胞と歯根膜幹細胞)がいることは明らかになっていますが、歯の上皮組織の幹細胞の有無については、明らかになっていません。しかしながら、マウスなどの切歯(常生歯)には上皮幹細胞が見つかっています。以上のことから、歯周組織を再生させるには、歯根膜の線維芽細胞やセメント質を作り出すセメント芽細胞よりも歯根膜幹細胞の存在が成功の鍵となります。