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歯肉は2階建ての組織構造

皮膚から大量の垢が剥がれ落ちているのと同じように、歯肉からも垢が剥がれ落ちていることはご存じでしょう。しかしながら、垢がおちても皮膚も歯肉も、その厚さは変わりません。その仕組みは幹細胞で説明ができるようになりました。そこで、まずは正常な歯肉の組織学的構造の復習から始めましょう。

口の中は粘膜によって身体の内側と外側が仕切られています。歯肉も身体の中と外を仕切っていますので、口腔粘膜の一つに属します。口腔粘膜は可動性に違いがあります。歯肉や上あご(硬口蓋)の粘膜には可動性はありませんが、頬粘膜や歯槽粘膜には可動性があります。口をあけて頬を引っ張ると頬粘膜は動きますが、歯肉は動きません。可動性のある口腔粘膜は被覆粘膜に分類され、動かない粘膜は咀嚼粘膜に分類されます。もう一つは、特殊粘膜です。特殊粘膜は、舌にある味蕾を含む粘膜のことです。このように口腔粘膜は3種に分類されます。被覆粘膜と咀嚼粘膜の可動性の有無には理由があります。今でも、その理由を覚えていますでしょうか?

では、その理由を順に説明します。被覆粘膜と咀嚼粘膜の組織学的構造についてです。粘膜は3階建ての建物と考えてください。となると、3階が上皮層、2階に粘膜固有層、そして1階が粘膜下層(粘膜下組織ともいう)になります(図1)。小腸や胃などの粘膜には、粘膜固有層と粘膜下層の間に粘膜筋板があります。でも、口腔粘膜の中で粘膜筋板を備える粘膜はありません。では、可動性のない歯肉も3階建てなのでしょうか?実は、2階建てで粘膜下層が欠けています。つまり、粘膜固有層が直接、骨膜に結合しているので可動性がありません(図2)。一方で、頬粘膜や歯槽粘膜は、脂肪などが多い粘膜下層によって可動性が生まれます。

上皮層は4階建ての組織構造

次に、3階部分の歯肉上皮に目を向けます。歯肉上皮の最も重要な機能は、バリア機能です。外部と内部の両方から身体を守る重要な保護機能を担っています。その歯肉の上皮は4階建ての重層扁平上皮です(図3)。重層扁平上皮とは細胞が積み重なってできた上皮です。歯肉の他、皮膚、咽頭・食道、肛門なども重層扁平上皮です。4階建ての細胞層は下から、基底層、有棘層・顆粒層・角質層です。歯肉上皮のすべての細胞は、基底層の細胞から生まれ、段階的にすべての細胞層を経て、一番上のバリアの役目をしている角質層にまで成長し、角質層の細胞は剥がれ落ちます。角質層は屋根の役割もしています(図3)。

基底層の細胞は基底膜の上に並んでいます。この基底層の細胞が有棘層の細胞に成長します。組織を顕微鏡で観察するときに、組織をホルマリンに漬けて固定という作業をします。有棘層の細胞は、ホルマリンに漬けると収縮し、細くて固い糸が絡み合って棘のように見えたことから有棘細胞と名付けられています(図3)。この有棘細胞は「角質」を作る強固なタンパク質のケラチンを生成するという重要な働きがあります。ケラチンは毛髪や爪の主な成分であるだけでなく、強固なバリアを維持するために欠かせない物質です。有棘細胞が成長すると、次に顆粒層の細胞になります。この顆粒層細胞は、さきほどのケラチンと脂質(セラミド)などから小さな玉を生成し、角質細胞の隙間を完全にふさぎます。そして、この仕事を完了すると、バリア機能を形成するために重要な「細胞死」が起きます。顆粒層の細胞が死ぬことで角質層になり、それが外部刺激から歯肉を保護するバリアに変わります。細胞が死んだことは、細胞の核がなくなることで分かります。細胞は、死ぬと細胞核を失い、代謝も成長も何もできなくなります。角質層は強固なケラチンからできているので頑丈で、角質細胞と角質細胞の隙間が塞がれ、物理的に異物が侵入しないようになっています。

この角質層の細胞は、時期が来るとはがれ落ちますが歯肉上皮がなくなることはありませんし、その厚さも変わりません。その理由を次回のコラムで解説します。

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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