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第11回 培養表皮の再生医療ーその1 表皮は人体の最大の臓器!

第11回 培養表皮の再生医療ーその1 表皮は人体の最大の臓器!

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本田 雅規 本田 雅規
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し前になりますが、前回は、上皮とその幹細胞について勉強したので、今回は、その上皮細胞を活かした皮膚や歯肉の傷を治す再生医療について2回に分けて概説する。現在、歯肉より皮膚の方が圧倒的に再生医療のターゲットになっているので、皮膚に着目するが、初回では、なぜ皮膚の再生医療が必要なのか?について述べる。
「表皮」「真皮」「皮下組織(脂肪組織を含む)」の3層から構成される皮膚(図)のうち表皮は皮膚のいちばん表面にある層で、上皮細胞が構成する。その表皮の上皮層から取り出した上皮細胞を培養して作製する細胞シートを培養表皮というが、Wikipediaにもすでに解説がある。培養表皮と呼ぶ場合には、上皮細胞のみから作製した細胞シートのことを指す。一方で、皮膚の結合組織の部分の真皮の線維芽細胞をシャーレの中で培養して真皮に類似したものは培養真皮と呼び、培養表皮と培養真皮を組み合わせたものは複合型培養皮膚とよび、どちらも再生医療に活用されている。

次に、どうして、この培養表皮が必要なのか?日本人の成人の皮膚の面積の平均は約1.6㎡でおよそ畳1枚分に相当し、体重の約16%もの重量を占める人体最大の臓器と言われている。なぜなら、皮膚は6つの大きな役割をもっているからである。第一が保護作用。体外からの刺激(機械的・物理的な外力、化学刺激物質、微生物、紫外線など)から体を守るとともに、体内からの水分喪失を防いでいる。第二が分泌作用。皮膚から皮脂や汗を分泌し、皮脂腺から分泌される皮脂が、皮膚の乾燥と細菌の繁殖を防いでいる。第三は体温調節作用。暑いときに汗を出して体温の上昇を防ぎ、寒いときには立毛筋を収縮させて体温の低下を防ぐのは皮膚である。第四が貯蓄作用。皮下に脂肪を蓄えているよね。第五が排泄作用。体内の老廃物を汗として皮膚の汗腺から体外に捨てている。そして、最後が皮膚には、知覚作用。触覚、痛覚、温覚および冷覚、そしてかゆみなどの感覚がある。これらのたくさんの機能を持っていることが、臓器と言われる所以であろう。
では、その臓器の皮膚が損傷するとどうなるのだろうか。成人が火傷などによって皮膚の受傷面積が体表面積の40%以上になると命が危険な状態となり、20%以上の受傷でショックをおこす危険がある。人の手のひら1つ分が体表面積の約1%になる。乳幼児や老人になると、30%以上で生命が危険となり、10%以上でショックをおこす恐れがある。一方で、皮膚は、小さな切り傷などが起きても数日で治癒する。こんなに早く傷が治るのは、皮膚の表皮にいる幹細胞が、人の体の中で最も分裂増殖能力が高い細胞のひとつで、表皮を再生する能力が高いからである。しかし、皮膚の表皮が広範囲に失われた場合は、欠損周囲の正常な皮膚にいる幹細胞が頑張って増殖したとしても、欠損部の全体を覆うことができないために、身体からの水分の喪失を防ぐことができずに生命の危機に直面する。したがって、救命するためには、早急に受傷した部位全体を何かで覆うことが必要になる。実際の医療では、皮膚が大きく失われた場合には、豚の皮膚(豚皮)や他人の皮膚などで、その欠損を覆うことをするが、我々のからだは、それを異物と判断して拒否反応を起こすので、自分のからだに生着しない。一時的には、良いかもしれないが、欠損した皮膚の修復には、健康な自分の皮膚を移植する自家表皮移植が最適である。そこで、自分の皮膚を使うことになるが、皮膚が広範囲にわたって失われた場合、移植するために十分な面積の健康な皮膚が得られないことがある。そのような場合、これまでは命を落とすこともあった。これが培養表皮シートの開発が望まれている理由である。次回はすでに製品化されている培養表皮やその作成方法などを紹介する。

 

 

本田 雅規
愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・主任教授・歯科医師・医学博士・セルテクノロジー学術顧問
ボストンにあるフォーサイス研究所にて、世界で初めて歯の再生に成功してから現在まで継続中。愛知学院大に移ってからは、トランスレーショナルリサーチの実現も目指し、臨床系講座と協力しながら歯科領域における細胞治療を開発中。
1989年 愛知学院大学歯学部卒業
1993年 名古屋大学医学部口腔外科学講座・医員/2000年~2001年 ハーバード大学・フォーサイス研究所・客員研究員
2003年~2007年 東京大学医科学研究所・幹細胞組織医工学・助手・助教
2008年~2014年 日本大学歯学部・解剖学第2講座・講師・准教授
2015年~現在 愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座・教授

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