私が卒業した20年以上前に比べると我々の業界も社会同様に変化している。当時はメジャーでなかったCTやマイクロは開業と同時に導入される先生も多く、また卒後まもなく、もしくは学生時代にその教育を受けられた先生方にはデジタルネイティブ、マイクロネイティブといった言葉が使われるほどである。そういった変化の中でクリニックでの日常を見ると、残すことが困難である、questionableやhopelessの歯をどうしても保存したいという患者さんの来院の仕方や考え方にも変化が現れてきたように感じる。
昔はクリニックなどを検索エンジンで検索をして来院する患者さんや、紹介を受けて来院する患者さんが多数を占めていたが、最近では生成AIを用いて自分の歯の状態を調べ、その知識を持って来院する患者さんもちらほらでてきた。生成AIとは、機械学習と人工知能の手法を使用して、テキスト、画像、音楽、ビデオなどの新しいコンテンツを生成する能力を持ったAIシステムのことであり、これらのAIシステムは、大量のデータからパターンを学習し、それらのパターンを基にして新しいコンテンツを作り出すことである。
先日こんなことがあった。その患者さんは、これまでいくつかのクリニックを受診されてきた。そこで受けた説明を元にご自身でその内容を生成AIで調べ、それをもとに我々のクリニックの診察を受診した。昔であれば少し驚いたが、何例かそのような経験をすると、その背景には患者さんの「歯を残したい」とか、「どうして良いかわからない」といった気持ちが感じられる。
一方で、治療に取り掛かるには、情報を整理しゴールに向けてのロードマップを共有することがとても大切であると感じている。そのケースについては、その後時間をかけて話をよく聞いてみると、やや患者さんご自身の思い込みの部分もあり、その後説明をし、納得していただき抜歯となった。
情報というのはその出どころや受け手の取り方で解釈が変わってくる。患者さんは悪気があってそのような方法をとっているわけではないと思うが、そのような場合はまずはゆっくりと話を聞き対話を持つようにしている。ここの部分は将来的に、より大切になってくると感じる。
将来、我々の分野では、治療全てが生成AIによって置き換わることはないであろうが、生成AIによって置き換わる部分も出て、また、職種によっては今後置き換わるであろう職種もあるだろう。私もこの連載が生成AIに置き換わらないよう、少しでも読者の方々に読んで良かったと思われる記事を書いていきたい。