歯科医院採用に求められる「意識改革と共通言語」の必要性
スキルを客観的に判断するテストとフィードバック
池田直史氏(以下池田氏) 「たかしデンタルクリニック」では長年、スタッフ採用についてのアドバイスをさせていただいていますが、衛生士さんやドクターの能力の見極めは難しいテーマですよね。採用に関して「スタッフのスキルを見てください」とお伝えしていますが、スタッフのAさん、Bさんがどれくらい仕事できるかどうかは、簡単には分からないと思うんです。本当の実力を見極めるために、山田院長はこの一年程、スタッフへのテストを実施しているそうですね。
山田隆史院長(以下山田院長) スタッフの能力や実力を判断するというのは主観的になりがちですが、私は客観的な視点が必要だと考えているんです。振り返ると、スタッフに「これを覚えておいて」と伝えた場合、もしそれができなかったら「なんでできないの?」となってしまったのは反省でしたね。今はテストを行って、点数を付けるというよりも「できた点」と「できなかった点」を明確にして、「改善が必要な点」についてコメントを書いて分かりやすく見せることをしています。勤務するスタッフは院長や上司からの評価や自分の実力を知りたがっているはずですから、単にテストするだけではなく、フィードバックも大切ですよね。
池田氏 結局、人間というのはテストされないと、向上心を発揮するのが難しいんですよね。テストした上で院長がきちんとフィードバックすることによって、溝が埋まるような形になれば、スタッフとのコミュニケーションギャップも生まれにくくなりますね。
チェックリストを活用してドクターの教育を円滑に
池田氏 ドクターについては、ゼロから教えられる新卒の方だけでなく、既卒の先生の採用の機会も増えてきました。山田院長ご自身も今まで培ってきたキャリアを下の後輩に伝えていきたいという思いをお持ちですよね。例えば、既卒の場合は10年キャリアがあるドクターもいますし、他の医院で勤務したことがあるので、やり方がそれぞれ違いますよね。
山田院長 経験のあるドクターの仕事のやり方を一から全部変えるっていうのは、時間が無駄になりますし、その方のプライドも壁になります。それをカバーするには「チェックリスト」を作るのがいいと思うんですね。当院で必要と思われる技術のリストを作成して配点を付けて、何分と目標時間を決めて、ドクターがそれぞれの項目ができるかどうかをテストしてチェックしています。チェックの後、当院と合うところはそのままでやってもらい、合わないところは修正してもらう形です。以前は経験のあるドクターに自分のやり方で働いてもらったこともありましたが、そうすると統制をとりにくくなります。
池田氏 患者さんは継続して受診しているのに違う方法で治療される、という状態になってしまうと、患者さんの不信感にもつながってしまいますね。このチェックリストで、ドクターができていない点を「見える化」するということですよね。
山田院長 はい、チェックリストでのすり合わせには時間がかかりますけど、それが一番リスクは少ないですね。ラインをお互いが決め合えば、院長と勤務医がもめて言い争うということもなくなると思います。
医院の実績をアピールできるSNSで人材採用につなげる
池田氏 ドクターの採用については、実績を示していくことが重要だと思うのですが、山田院長はSNS にも力を入れておられます。院長が10年間でやってきた500症例以上の治療経験をインスタグラムで出されて、フォロワーも増えていますよね。ご専門の小児矯正の症例を多く載せることによって、クリニックがどれだけの実績を持っているかがすぐ分かりますよね。最近は若手の先生も、症例をインスタで見て勉強することが増えていると聞きます。
山田院長 SNSに力を入れているのは、デジタルネイティブ世代の若者たちと同じ土俵に上がる必要があると思っているからです。自分ももし新卒なら大きな組織に行きたいと思うので、うちのような中堅のクリニックで人材を集めるには、SNSは必要だと思うんですね。うちは塾でいったら個別指導だと思うので、教育の充実度も示していきたいです。10年間で専門の症例写真がたくさん溜まっているので、そこから抽出してSNSに載せるのは自分の頭の整理にもなっていますね。ホームページは患者さん向けですから、ドクターや業界人に対する名刺になるのがSNSといえるかもしれません。
池田氏 山田院長はユーチューブもやっていて面白いのでぜひ見てもらいたいです。面接でも衛生士さんがユーチューブを見ました、と来られるそうですね。
山田院長 衛生士の面接のときに、応募してきた若手の衛生士にこんな話をしたことがあります。「あなたはこれから結婚して妊娠・出産する機会があると思うけど、そのときに退職してしまったら、歯科医院も困るし、あなたも結局キャリアを全て捨てて、ゼロからのやり直しになってしまいますよね。だからよく考えて、一生勤められるところを選んでください。もし当院にずっと勤めるっていう気持ちがあるんだったら、こちらも産休も一生懸命バックアップします」と伝えました。衛生士はドクターと違って開業するわけではないので、求めていることは自分のライフスタイルに合わせてくれるか、人生にプラスになっているかどうかなんですよね。こちらの考えを上手に伝えていけば、離職率も改善できるのではないでしょうか。
池田氏 応募側にとっても、山田院長のお話で大切な視点に気づかされるかもしれませんね。また、普段自分が思っていることなのですが、山田院長をはじめ、医院経営に尽力し、さらに優れた技術を持っている先生方の存在を知ってもらう機会が少ないですよね。僕が山田院長に希望していることは、もっと影響力を持って世に出て知見を広めていただきたいです。そのために本誌に出ることもそうですが、他者とつなげる橋渡しもしたいと思っています。
山田院長 池田さんには人材採用についてのアドバイザーとして本当に役に立つ助言をいただき、人材に対する自分の考え方も変わっていきました。池田さんにはアドバイザーとしての活動をもっと続けて広めてもらって、自分のような院長をもっと増やしてほしいですね。活動によっていい人材が増えれば、院長とスタッフが本当にウィン・ウィンの関係になると思うんです。歯科医院が患者さんの取り合いではなくて、優秀な人材が定着することによって患者さんたちの歯科衛生、口腔衛生レベルを上げることができれば、歯科医院全体の発展に繋がると思っています。