アメリカで最も権威ある学会であるAAE(American Asso-ciation of Endodontists)には、I.B.Bender Lifetime Educator Awardという賞があります。賞の名の通り、候補者は生涯にわたる実績を評価されます。審査対象の受賞要件はどれも大変厳しいのですが、もっとも難しいのは「教え子が誰もが知るようなオピニオンリーダーになる」という点ではないでしょうか。候補者自身がいくら良い論文を書いて実績を上げてもこの要件はクリアできないからです。まさに、候補者の「学問的実績」と「お人柄」までを審査するような同賞の累積受賞者は2018年2月現在たったの17名と、大変希少です。私にとって受賞者の皆様は、いわば雲の上の存在。常々学会講演を受講させていただきながら、「この先生方は大学ではどんな指導をしているのかなあ?」と興味津々でした。
そんな私に、昨年ビックチャンスが到来しました! 私が専任講師・通訳を務めさせていただいている、デンタルアーツアカデミーにおいて、I.B.Bender Lifetime Educator Awardの2018年受賞が内定した、フリードマン先生がトロントスタディクラブを開催してくれることになったのです。同コースのカリキュラムは現在も進行中ですが、後進の育成に偉大な功績を残している同先生の指導は、やはり「さすが」の一言でした。カリキュラムの設計や講師の選定がすばらしいのは言うまでもありませんが、もっとも感銘を受けたのは受講生を本気で学問的に怒ってくれるという点です。
先生方も幼いころは、親・親せき・学校の先生、そして大学在学中は指導教官に怒られたこともおありだったかと思いますが、独立開業し、院長として日々を過ごされていると、だれも怒る人がいないという状況ではないでしょうか?
スタディークラブの中で、フリードマン先生は、熱意とコミットメントの強さから、「トロント大学と同じように教えて、彼の地では問題なく生徒全員がマスターできることが、どうしてここでは身に付かないのか?」と本気でご立腹になります。宿題もお一人お一人、きっちり添削してくださったうえで、フリードマン先生の許容範囲に満たなかった症例については、「なぜこういう治療をしたのだ?」と本気で嘆かれます。一度、日本の保険診療の下では… というような話になった時には、「グローバルスタンダードとはかけ離れている。なぜそのような治療になるのだ?」と激怒されてしまいました(笑)。
スタディークラブ開始当初は「怖い!!」という印象のみが強かったフリードマン先生ですが、先生の「なんとか受講生を導くんだ!」という純粋な動機からくる厳しさ、ご自分も妥協なく研究に励まれている姿を拝見していると、「自分たちはまだまだだ」「フリードマン先生になら叱られても仕方がない」と感じられるようになりました。実際、私も受講生の先生方のチェックテストの成績が思わしくなかったときには、「Yoshi、ちゃんと通訳をしたのか? 事前に送っているプレゼンテーションを見て十分に準備したのか?」とドキッするような指摘を受けてしまいました。幸いなことに、トロントスタディクラブ第二期の開催も決定し、フリードマン先生の指導を間近に受けられる期間が一年延びました。今年もどんな「冷静ながらも熱い」素顔を見せてくださるか、今からとても楽しみです。