4月初旬に、フランスで破折器具除去のハンズオンコースをさせていただく機会に恵まれました。同コースには、フランス国内だけでなく、ポルトガル・イギリス・スペイン・イスラエルと、ヨーロッパ内外から受講生が集まってくださいました。そんな中で、地元フランスからは「危険領域(下歯槽管や上顎洞)外科処置の天才」ジャン-イブ・コシェット先生が受講生として参加してくださり、フランス歯科事情等のトピックについて情報交換することができました。
フランスで歯科医になるのは、医者になるのと同等かそれ以上に難しく、特に学費をリーズナブルに抑えられる、国立大学の歯学部はすべての趣味を諦めて、勉強に没頭しなければ入学・卒業できない程の難関だそうです。従来、フランス国内の医療は高額だけれど世界最高水準を謳っており、実際、故金正日を筆頭に、北朝鮮のロイヤルファミリーはフランスの各地の病院のお得意様だったそうです。
しかし、状況が激変したのが2009年のリスボン条約発効による欧州連合の設立でした。欧州域内経済の自由化により、フランス国外でライセンスをとった歯科医がフランス国内で開業できるようになったのです。これにより、治療費の価格破壊が一気に進み、フランスでライセンスを取得したというだけではとても生き残れないという、厳しい状況になりました。コシェット先生ご自身は、元から「他の人が怖がって取り組まないような危険領域の外科処置で結果を残そう」と、ご自身の独自性の追求に余念がなかったため、欧州連合の成立による影響はほぼ皆無だったそうです。ただ、近年は移民の大量流入がフランス経済に影を落とす中で、「更なる独自性と優位性を高めなければ将来は危ういのではないか、常に危機感がある」とコメントされていました。また同時に、「危険領域の外科処置と破折器具除去は、一般の歯科医が敢えて取り組みたがらない、参入障壁の高いトピックであるため、一度マスターすれば、自分にとって大きなアドバンテージになりうる技術である。今回のコースで破折器具除去の技術を会得する手伝いをしてくれて感謝している」ともおっしゃってくださいました。
新しい治療上の武器を手に入れて、少年のように目をキラキラさせているコシェット先生の顔を拝みながら、何歳になっても「知らないことは知らない、知っている人に習いに行って自分で汗をかいて習得する」という潔い姿勢、「移民問題・治安問題に忙殺される政府に期待はできないから、自分のビジネスは自分の手で守る」という高い当事者意識に大きな感銘を受けるとともに、陸続きの隣国同志が入り乱れて激しい競争を繰り広げる欧州の厳しさを垣間見た気がいたしました。