懇親会等でお目に掛かる先生から、「自費治療をスタートすると、患者さんが減ってしまうのではないかと心配です」というご相談を頻繁に受けます。そんな時、わたしは例外なく、「一時的に患者さんが減ってしまっても心配無用です。来なくなってしまうような患者さんは追いかける必要はありません。通い続けて自費治療の良さをわかってくれる患者さんが、将来良い患者さんを連れてきてくれるようになるので、患者さんのクオリティーアップにも繋がりますよ」とお答えします。すると、質問した先生は、「そうですかー」とやや不安そうな笑みを浮かべつつも、納得してくださいます。
ところで、右記の質問に関連し、最近面白いことに気付きました。高級レストランの数万~数十万円のディナーは文句を言われずに市民権を得ているのに、歯科医院での自費治療のプライシングについて、皆様が不安を覚えるのはなぜなのでしょうか?
ディナーはどんなに高額であっても、次の日には大半がお手洗いに消えてしまいます。一方、キチンと治療をした歯は一生モノです。歯科治療の価値は高級ディナーよりも劣後するのでしょうか?
答えは当然NOです。歯は、わたしたちの身体の入り口で、食べ物を噛み砕いて体内に吸収しやすくするだけでなく、ストレスを軽減させる効果も持つ、大変重要なゲートキーパーです。歯が健全に機能しなければ、食事をすることもままなりません。因みに、某有名アーティストも歯の痛みが原因でライブを中止しておりました。
皆様、歯の治療に対する価値観を患者さんサイドだけではなく、治療項目をプライシングする私たち歯科医の側も正しく認識しなおす必要があるのではないでしょうか。
歯科治療の価値観を患者さんたちに訴求するためには、何より私たち歯科医が、自信をもって自分のやっていることを説明できなければいけません。「歯が痛い」と言って来院した患者さんの痛みの原因に真摯に向き合っておられますか? 私のクリニックに「歯が痛い」といって来院する患者さんの痛みは、なんと4割が歯原性ではないのです。
歯の痛みの原因究明こそが、一番最初の、そして最大の患者さんに対する真の歯科治療の価値観訴求ポイントとなりうるのです。この部分の診査・診断を疎かにして「歯が痛いなら神経を抜いてしまおう。それでも治らないなら抜歯しよう」と条件反射的に施術してしまっていては、先生が色々と勉強されて積み上げてきた価値を発揮するチャンスを永遠に失ってしまっています。
歯科医師国家試験をパスするまでは、確かに覚えたことをアウトプットすることが重要でした。ですが、臨床に出た後は実践あるのみです。是非、記憶したことを機械的に繰り返すのではなく、日々の臨床や学会で得た知識をもとに、自分の頭で考えて診療する習慣をつけてください。そうなって初めて、患者さんに自信をもって自分のやっていることを一点の曇りなく説明できるようになるのです。歯科治療の価値観の再認識に是非ご協力ください!