4月にモントリオールで行われたAAE(米国歯内療法学会)にスピーカーとして参加させていただきました。現地では、様々な先生方と交流を深めさせていただきましたが、「継続は力なり」というのは言い得て妙だなあ、という場面にそこここで出くわしました。
例えば、MTA開発者のトラビネジャット先生は、「歯が変色しないMTA」を新たに開発中です。また、スティーブ・ブキャナン先生は、「バイオセラミックとMTAの比較優位性」についての考察を深められておられました。皆、「非凡な才能に恵まれた」わけではなく、「不断の努力」を積み重ねることで現在の地位を確立し、今もなお「歯科の発展へのコミットメント」が半端ないのです。
今回のAAEでは、そんなオピニオンリーダーたちを巻き込んだ、「欧米で評判のとある新製品」をめぐる、とても興味深い事象を発見いたしました。当該「新製品」はその高額なプライシングとメーカーの販売戦略が功を奏し、マーケティング的には大変にうまくいっているそうです。ですが、多くのオピニオンリーダーの先生方はやや懐疑的なスタンスをとっておられました。
例えば、フリードマン先生やバーマン先生は「ひとつもSEMがエビデンスとして紹介されていない。現段階で患者さんに使用するのはリスクが高すぎる」とご指摘されます。スティーブ・ブキャナン先生も「本当に有効なものなのか、自分自身でまだ確信が持てない。メーカーの宣伝を鵜呑みにして患者さんに使用し、もし後々『ワークしない』というエビデンスが出てしまったら、クリニックの経営が危なくなるだけでなく、信頼してくださった患者さんに申し訳が立たない」と大変正直にご自身の懸念を吐露してくださいました。
私は、こうしたご意見を伺う中で、当該「新製品」の中長期的な成否に大変興味を覚えただけでなく、オピニオンリーダー達に共通する「孤高の精神」に深く感銘を受けました。彼らは、セミナーに参加し、論文を読む際には「誰が主催者のセミナーなのか」「どんな利害関係のある人間が書いた論文なのか」といった、セミナーや論文の背景にまで気を配ります。そして、多くの反対意見にも幅広くネットワークを張り、自分自身が納得しなければその治療法や器具を採用しません。決してメーカーのセミナーを鵜呑みにしないのです。それは、選ぶ器具・治療法、一つ一つにプライドを込め、自分を指名して来院してくれる患者さんの信頼に応えるためなのです。
彼らにとって当たり前になっている、「自分の行った治療の結果責任は自分で負う=自費診療」への矜持を垣間見た気がして、「エビデンス重視の診査・診断、診療スタイル」に対して改めて重要性を認識するとともに、襟を正した次第です。