破折器具除去に次いで多く講演を頼んでいただけるトピックに「MTA根管充填・MTA除去」があります。このMTAこそ、根管治療を自費で行い、正しく使っていただきたいアイテムNo.1です。
日本では、「保険範囲で認められていない」という理由から、根管充填剤としてガッタパーチャーが多く用いられています。大規模な学会では、保険適応の関係から、「MTAを根管充填剤として使用した場合の症例・エビデンス」の発表が歓迎されない、という残念な状況になっております。
ですが、ガッタパーチャーは①時間がたつとシュリンクしてしまう、②歯にくっつかない、③感染の温床となってしまう、といった根管充填剤としては致命的な欠点を複数備えてしまっています。まさに、「根管充填していないのと同じか、時間がたつと感染の温床になってしまう分、歯の中に入れない方がいいのではないか」と思えてしまうような素材なのです。
私が歯学部の学生だったころはMTAが開発される前で、世界的にも唯一の根管充填剤がガッタパーチャーでした。当時の私は、ガッタパーチャーを加熱したり、垂直方向に加圧したりと様々な方法を必死で試し、なんとか適切な根管充填を行おうと試行錯誤を繰り返しましたが満足のいく出来栄えにはなりませんでした。
「ガッタパーチャーで長期安定した根管充填を行うのは難しい。何かもっといい素材はないものか。」そんな問題意識を持ち海外の論文を読む中で90年代末にやっと見つけたのがトラビネジャット先生による、MTAの論文でした。直後の夏休みに渡米し、トラビネジャット先生の「MTA使用方法に関するハンズオンコース」に参加。MTAの①生体親和性が高い、②殺菌作用が高い、③封鎖性が高い、という特長は根管充填剤に長年探し求めていた機能そのものでした。「これだよ!」と実習中にガッツポーズしたのを覚えています。
2000年前後に開業し、自費専門のクリニックを立ち上げて以降、イニシャルエンドの治療から根管充填には専らMTAを使用しています。2017年には、トラビネジャット先生の「MTA全書」を翻訳させていただく機会を得ましたが、MTA周辺論文を読み漁る中で、MTAの化学的組成や特長、作用機序の詳細を勉強しなおし、今更ながらMTAの優秀さに感銘を受けました。
MTAが世に出てから20年以上の歳月が経ち、数年前にMTAの特許が切れました。各社から様々な特徴をもつMTAが発売され、選択肢も広がっています。先生方には、是非ご自分の使いやすいMTAを自費治療に導入し、根管治療を「完治させた」「克服した」という実感を持っていただきたいと考えております。