保険診療でお馴染みの金属であるパラジウムの価格高騰が叫ばれて数年が経ちます。残念ながら保険点数は金属市況ほど上昇しないのが常ですので、「パラジウムを使用して治療すると赤字操業」という大変不幸な状態が続いています。そんな中、「パラジウムを銀に変更する」という自己防衛的な対策をとっていらっしゃる方々を散見しますが、退色することや患者さんのアレルギー反応を考えると次善の策と言わざるを得ません。
パラジウムばかりではありません。根管治療で愛用しているファイルの原料であるニッケルは、電動自動車に不可欠なリチウムイオン電池の正極材であること、ロシアが世界有数の埋蔵・生産地であることなどから、2019年対比で4倍の価格に跳ね上がっております。
チタンも同様です。「錆びない、強度が高い」といった特長が評価され、化学プラントや海水淡水化装置、さらには高深度ガス掘削装置など幅広い用途に使われるようになったため、過去6年間で2倍超の価格水準となりました。
右記のような原料価格高騰の最中、金融引き締めに走る諸外国を後目に日銀は金融緩和を継続中です。この結果、ドル円は20年ぶりの円安水準に落ち込み、まさに私たち歯科医師は「原料高・円安・冴えない診療報酬」のトリプルパンチを受けているようなものです。しかし、コロナ禍期間を通して、大変興味深い現象も見られます。
「コロナ禍になってから売上が上がった先生はいらっしゃいますか?」
私はいつも自分が主催する歯科医師専門塾・デンタルアーツアカデミーのコース冒頭で上記のように質問することにしております。必ず半分以上の方々の手があがります。これらの先生方に共通するのは、「自費診療に積極的に取り組んでいること」です。実際、私のクリニックでも新患が毎日はいるような状況で、売上も好調です。
どうやら、「コロナ禍を通じてより健康に目がいくようになり良質な治療を求める患者さん」と「困窮気味となり歯科治療を後回しにしてしまう患者さん」に明確に分かれ始めているようです。「良質な治療」は自費診療に取り組んだ方が断然提供しやすいです。
ところで、先生方はContinuous Education systemという言葉をお聞き及びでしょうか。「継続的に勉強を続ける義務を課す制度」ですが、日本の三大国家資格、弁護士・公認会計士・医/歯科医師のうち、Continuous Educationを協会として義務付けていないのは医/歯業だけです。私はこの事を「制度の不備」ととるのではなく、私たち一人ひとりが高い倫理観を持って、患者さんの健康を維持し続けるための努力を惜しまず、勉強し続けることを預託されていると感じています。
是非、日々の診療で疑問を持たれたら、「そのように決まっているから」と、何となく納得するのではなく、突っ込んで調べてみてください。大抵、「最近の研究」によってエビデンスに裏打ちされた「大学で習っていない新事実」が出てきます。そうなると、保険診療で決められたプロセスではなく、新しく会得した知識や治療技術を発揮したくなってくるはず。
「良質な治療」を求めている患者さんは意外とたくさんいらして、先生方との出会いを待っていますよ!