文系資格の最高峰と言われる弁護士・公認会計士は、その資格試験の出題内容が毎年のように改定されるそうです。日々進化する実務の世界を背景に、それを担うスペシャリストに要求される知識や資質が異なってくるためだそうです。日本会計士協会から出される実務指針などに基づき毎年のように資格試験の出題範囲が見直されます。そして、新しいトピックほど出題されやすいのだとか。
翻ってわたしたちの歯科医師国家試験を見ると出題範囲や出題形式は過去数十年、基本的に変わっていません。
「歯科医師国家試験は科学に基づいているから文系資格と違ってそんなに簡単に変わらない」という反論が聞こえてきそうです。ですが、世界の学会や論文集を見ると、過去1年を見ただけでも膨大なエビデンスが発表され、その結果として選択すべき治療方法に変化が生じています。2022年から2023年の間だけでも、根管充填におけるMTAの優位性についてのエビデンスが確立され、主要大学のカリキュラムが変わっています。また、私事になりますが、過去5年間、私が考案した「破折器具除去」もエビデンス力の高いリサーチを行ったため、欧米の大学で使われる歯科の教科書に章を構えることができるようになりました。
全く変わらない日本の歯科医師国家試験、またそれに伴う歯学部のカリキュラムは、「科学の進化がキチンと反映されていない」という残念な状況にあると認識しています。これは、保険診療の枠組みの中での治療方法や使用器具・材料に大きな進化や変化が見られなかったことの大きな弊害なのです。日々発展する中で同じことをやり続けていれば、それは「停滞ですらなく、退化している」ことになります。毎日の報道を横目で見ると、日本の政府・政治家は目先のことに忙しく、日本国民の口腔内環境を守る歯科医師の教育プログラムにまで気を配る余裕は無さそうです。皆さまの歯科医師免許を「実りある人生のお供」にするか「さび付いたアクセサリー」に終らせるかはまさに皆さまお一人お一人次第なのです。
歯科の分野で欧米の大学と日本の大学のカリキュラムの差が出ているエリアは多々ありますが個人的に最も深刻だと思うのが根管充填と外傷歯のマネジメントのところです。エビデンスを基にしたケース別の充填剤や充填方法の選択は治療の長期予後に大きくかかわってきます。また、様々なアクシデントによって外傷を受けてしまった歯をキチンと系統立てて対応しないと救える外傷歯も救えなくなってしまいます。
今回、これらの分野の世界のトップランナーをデンタルアーツアカデミー主催の「Endo Summit」に招聘いたしました。お一人目はネスリン・タハ先生。彼女は現在、ヨルダンで教えていますが、オーストラリアで教育を受けました。現在、外傷歯のマネジメントのトピックで引っ張りだこです。お二人目はジャーニン・ヒー先生。中国出身の先生ですが、コネチカット大学で学び、現在はダラスで教鞭をとられています。優秀な臨床家でもあり、シングルポイント法の名手です。
一日で根管充填と外傷歯のマネジメントについて学べる贅沢なカリキュラムです。是非ふるってご参加ください。