歯科医療もデジタルを主とした診療スタイルへ変化を求めらていますが、取り扱い方次第でデジタル化は「効率化」ではなく「非効率化」をもたらしてしまうことも。今回は、歯科医院経営コーチ「 三方よし(さんぽうよし)ビジョン達成サポート 」代表の森脇康博さんに、歯科医院で実際に起きているデジタル化の落とし穴の実例と、落とし穴の回避方法を伝授していただきます。
業務効率化と顧客満足度の向上が同時に実現する歯科医院のデジタル化
予約管理システムの導入やサブカルテの電子化、オンライン資格確認、将来的に活用が進むであろうPHR(パーソナルヘルスレコード)、電子カルテの標準化や受付業務の自動化を含めたデジタル化の動きが加速しています。
また、治療の分野においてもCAD/CAMの保険適応範囲の拡大や光学印象、インプラントの3Dナビゲーションシステムやメタバース歯科の登場など、未来の遠隔医療を可能とする技術が進歩し続けているのです。
歯科医院のデジタル化の現状としては規模の大きな歯科医院やデジタル好きの院長が積極的に導入していますが、多くの院長はまだアナログ中心です。
では、歯科医院はこれから進むデジタル化にどこまで対応する必要があるのでしょうか? 院長がそれを判断する視点として、
❶ これから進む人材不足
❷ デジタル世代の患者の増加
❸ 国の医療政策対応
❹ かかりつけ患者対策
があります。
例えば、❶スタッフの負担を軽減する為に患者に送る予約確認はがきを自動メールに置き換える。電話本数を減らす為にLINEで相談問合せを受ける。❷デジタル世代に対応する為にSNSでコミュニティを作り情報提供をする。❸国が進めるデジタル化に対応する為にオンライン診療に取り組む。❹かかりつけ患者とのコミュニケーションを深める為に予約管理ソフトの導入やサブカルテの電子化を進める等も、医院の状況に合わせて進めなければ逆に非効率となるのです。
デジタル化で成功している歯科医院では省力化も進めています。電子カルテ化とサブカルテの電子化を進めてカルテ管理の手間を減らしたり、院内の連絡にグループウェアを導入して連絡もれを防いだり、業務量を減らすことによって空いた時間を患者満足度の向上に使っているのです。
実際に起きている! デジタル化の落とし穴 ~ 事例 ~
事例1: 予約管理システムでの失敗例
予約管理システムでの失敗で多いのは入力した情報が十分に活用されていないことです。忙しいとドクターが情報を見ていない場合もあり、せっかく入力したデータが活かされないのです。
また、患者ごとに付けるマークが更新されていない事もあり、新人スタッフに間違った患者情報が共有されていることがあります。入力データの更新ルールを統一しておくことも大切だと言えます。
▼▼▼改善すべきポイント▼▼▼
予約管理ソフトは備忘録としてではなく、患者理解やコミュニケーションに活用することで威力を発揮しますので、情報を活用して患者とどうコミュニケーションを取るのかをロールプレイングしておくことも有効だと思います。
事例2: 治療に関するデジタル化の失敗例
一番多い失敗例は収益に結びつけるノウハウが無いままに診断システム等を導入してしまうことです。システムを効果的に使うにはハード面よりもソフト面の方が重要なのです。
例えばCAD/CAM冠と自費の補綴物との差を材質の違い以外で患者に説明できるのか? インプラントの3Dナビゲーションシステムの価値を患者に伝え、治療費を値上げすることが出来るのか? など、導入を検討する前に考えるべきことは多くあります。
▼▼▼改善すべきポイント▼▼▼
基本的には目標とする収益が達成できる根拠がある場合に導入するべきであり、友人が導入したからという理由での導入は避けるべきだと考えます。また、減価償却費相当額を設備投資準備金として貯めておくこともお勧めです。
事例3:SNS活用に関する失敗例
Facebookやインスタグラムなど、SNSを使った集患はハードルが高く、手間がかかる割に成果に繋がりにくいと思います。また、投稿が情報提供ではなく宣伝が多いと読者に迷惑だと思われます。スタッフもネタ不足で負担に感じていますので、SNSを集患目的で活用するのはお勧めしません。
また、Facebookで子育て層向けの投稿をするなど、ターゲットとツールが合っていないケースも見受けられます。
▼▼▼改善すべきポイント▼▼▼
実際に子育てをしているスタッフが自分の悩みも含めて発信すると共感を集められると考えます。SNSはコミュニケーションツールなので本来の使い方をお勧め致します。
デジタル化を成功させるには
歯科医院のデジタル化を成功させる為にはデジタル化したデータの活用法とオペレーションへの落とし込み方をあらかじめ考えておくことです。例えばマイクロスコープで撮影する動画や画像も患者への治療説明や動機づけに使わなければ単なる拡大鏡になります。
予約管理システムも入力したデータベースを患者コミュニケーションに活用し、マーケティングにも活かす必要がある。レセプトコンピュータ等の経営資料も活用法を知らなければ意味がないのです。
従って、デジタル化を進める場合には「目的」と「活用法」を事前にスタッフに提案して、協力体制を作っておくことが大切だと思います。