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前回の連載で、予防的歯周初期治療におけるマイクロバイオームをコントロールするためのポイント「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)は最低限の回数で行う」についてお話をさせていただきました。今回は2つ目のポイントを述べさせていただきます。

SRPは短期集中的に行う

予防メインテナンスを成功に導くためのマイクロバイオームを考慮に入れた歯周病予防では、同一口腔内においてはプラークの量も問題ですが、さらに細菌叢の質の方が重要となります。ではこの質のコントロールを行うことを前提としたSRPを実践するために何を考えたら良いのでしょうか?
歯周疾患は細菌感染症であり、インフェクションコントロールが重要であることは誰しもが認識するところです。これまでの歯周治療の歴史を振り返ってみると1965年にプラークが歯周病を引き起こすことを、Loeらがエビデンスを持って示して以来、プラークの総量のコントロールがインフェクションコントロールの主体となってきました。その後、1970年代に入ると歯周病原菌が確認され、歯周病原菌の徹底的な除去がインフェクションコントロールと考えられるようになりました。しかし、この時期に行われた長期間にわたる抗菌薬投与の副作用、耐性菌の問題、さらには抗菌薬だけでは十分なインフェクションコントロールが行えないという事実から、その後、歯周治療に抗菌薬を積極的に用いることがなくなってきました。現在では歯周ポケット内細菌叢の安定化=マイクロバイオームのコントロールが重要であると考えられ、ポケット内細菌における歯周病原菌の比率の低い安定した細菌叢を得ることに主体がおかれるようになっています。しかし、そこで行われているのは機械的なポケット内プラークコントロールとなるSRPであり、細菌叢を変えるにはかなりの時間を要するだけでなく、細菌叢を変えることができないこともしばしばです。1995年にベルギー、カトリック大学のQuirynenらが、機械的プラークコントロールと薬物療法を併用したFull Mouth Disinfection(FMD)※1を発表しました。この方法はクロルヘキシジンを応用しながら24時間以内に全顎のSRPを行う方法で、短期間に歯周組織の状態を改善させることができ、ポケット内細菌叢が改質されると報告されました。しかし、施術に連続して長い時間を有すること、術後に菌血症による37.5度以上の発熱を起こす確率が高いこと、そして日本で使用が難しいクロルヘキシジンを用いることなど、いくつかの問題点を有していました。この短期間での変化を、通常のコンベンショナルなSRPで得られない理由として、口腔内を4分割・6分割し、一週間ごとなど順次にブロック毎のSRPを行う方法では、綺麗になった部位に対して、まだSRPの施術を行っていない部位の細菌が並行再感染を起こし、菌質の良好な変化を阻害していると考えられます。
口腔内から歯周病原菌を一掃するためには、3DS(Dental Drug Delivery System)の併用、術前の抗生剤を投与、機能水の併用などを応用し菌血症を抑制しながら、短期間で全顎のSRPを完了させる事(Full Mouth Short term SRP)が重要であると言えます。


週に2~3回全顎を2週間ほどで集中してSRPを行うことが効率よく歯周ポケット内のインフェクションコントロールを達成し、健康層のマイクロバイオームを確立することにつながり、歯周初期治療として予防メインテナンスを成功に導き、長期間安定した歯周組織を確立することができると考えられます。

※1 Full- vs. partial-mouth disinfection in the treatment of periodontal infections: short-term clinical and microbiological observations.
Quirynen M, Bollen CM, Vandekerckhove BN, Dekeyser C, Papaioannou W, Eyssen H.
J Dent Res. 1995 Aug;74(8):1459-67.
辻村 傑
つじむら歯科医院グループ 総院長
1993 神奈川歯科大学 卒業
1995 つじむら歯科医院 開業
1997 医療法人社団つじむら歯科医院 開設
2008 神奈川歯科大学生体管理医学講座/薬理学分野大学院
2010 南カリフォルニア大学客員研究員/南カリフォルニア大学アンバサダー(任命大使)
2012 ハートフルスマイルデンタルクリニック/茅ヶ崎 開業
2013 インディアナ大学 歯周病学インプラント科/客員講師
2014 インディアナ大学医学部解剖学/顎顔面頭蓋部臨床解剖 認定医

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